退職金や保険金を狙う銀行マン

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退職金や保険金を狙う銀行マンの「信じられない手口」

 2019年からたびたび話題にのぼる「老後資金2000万円問題」。先の見えない年金に加え、医療費や介護費用など、老後生活への不安は尽きない。さらにこのコロナ禍で、お金の不安は一層高まっている。老後問題解決コンサルタントの横手彰太さんが話す。

「現在、70才の預貯金の中央値は460万円。2000万円には到底足りません。退職金や年金など、年を重ねてから入ってくるお金の使い方には、若いとき以上に慎重になるべきです」

 年を重ねれば、判断力の低下はどうしても避けられず、大切な老後資金であってもついつい間違った使い方をしてしまいがちだ。そうした点を見越してか、金融機関もあの手この手で、高齢者のお金を狙ってくる。

 都内在住の竹田義子さん(72才・仮名)は、長年連れ添った夫を亡くした後、自宅に銀行マンが訪ねてきたという。

「“このたびは本当にご愁傷様でございました”と、丁寧に菓子折りまで持って来てくれました。しばらく他愛ない話をしていましたが、その銀行に預けているお金の話になって、夫の保険金の使い途を聞かれたので、“夫が残してくれたお金だから大切に運用したい”と話したんです。すると、2000万円分の外貨建て保険をすすめられました。金利も高く、元本割れすることもないと言うから、その場で契約しました。

 しかし、後に知ったんですが、いくら金利が高いといっても、円をドルにするだけでもかなりの手数料がかかり、大損する可能性の方が高い。いま解約しても損するだけなので、どうしたらいいのかわからず途方に暮れています」

 生命保険会社での勤務経験を持つファイナンシャルプランナーの横川由理さんが指摘する。

「銀行は口座の入出金を把握しているので、生命保険金や退職金など、大きなお金が動くと即、営業をかけてきます。保険金が入った場合、保険会社はさすがに気が引けて営業をかけづらいものですが、銀行はお構いなし。お悔やみを言いに来ているように見せかけて、巧みに誘導するのです。

 一方で、入ったお金が退職金の場合は、男性がもらうケースが多いので、若い女性の行員が電話をかけてきたり、丁寧な手書きの手紙を送ってきたり、あの手この手でアプローチしてきます」

 それなのに、「銀行が言うことなら大丈夫」と、無条件に信頼してしまったのだ。

「そもそも、銀行に相談している時点で、落とし穴にはまっているも同然です。銀行が紹介する商品はラインアップが少なく、銀行だけが得する“売りたい商品”が多い。かんぽ生命保険の不正販売問題があったように、銀行や郵便局の信用力をうのみにしては、失敗するばかりです」(横手さん)

◆“元本保証で金利が高い”の罠

 横川さんは、退職金の使い途に迷った顧客が銀行の窓口に行くのに同行した際、信じられない“手口”を目の当たりにした。

 2000万円の退職金を手にしたばかりの顧客に、銀行員は開口一番、「お客さまは、投資した商品の価値が毎日変動して一喜一憂するものと、着実にお金が増えていく商品、どちらがいいですか?」と切り出してきたのだ。

「この質問の真意は、“投資信託と外貨建て保険とどっちがいいですか?”の二者択一。そんな言い方をされたら、誰でも後者を選びます。そうして、“元本保証で金利が高い”などと言って、銀行側が得しやすい外貨建ての保険を巧みに選ばせるのです。

 さらに、いくら“元本保証”といっても、それはあくまでも外貨建てでの話。円に換えたときに円高になっていれば大損ですし、解約時には多額の解約控除が差し引かれてしまいます。その銀行員は、こんなにもリスクの高い商品を“為替リスクはありますが、円で払って、円で受け取るので大丈夫です!”と言い切り、“自分の両親にもすすめたいくらい、いい商品です!”などと言って売りつけようとしていました」(横川さん)

 銀行が自分たちに有利な商品を巧みに売ろうとするのは当然のこと。まじめに勤め上げた人ほど、こうした舌先三寸に引っかかりやすい。

「現役時代は誠実に会社に貢献し、上司の言うことにも律儀に従ってきた仕事人間タイプの人は、お堅い職種である銀行マンの言うことをうのみにしてしまう傾向が強い。そもそも、60才以降は“守りのステージ”であって、お金を増やそうとするステージではありません。退職金を増やすのではなく、守ることを優先して考えるべきです」(横手さん)

 もちろん、ベストは60才になる前から、資産運用の勉強をしておくことだが、何よりも大切なのは、銀行から手紙や電話が来ても、絶対に窓口に行かないこと。

「銀行から連絡が来ても“うちにはお抱えのファイナンシャルプランナーがいるので結構です”などと言って、キッパリ断ってください。一度契約すると、解約しようとしても解約控除があったり、元本の7割しか戻ってこないようなものも少なくない。最初から近づかないのが賢明です」(横川さん)

※女性セブン2021年6月10日号